小児科のあれこれ

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腹痛と救急受診

自分の中で、救急疾患で一番怖いと思っているのが腹痛です。多くは問題ないのですが、急変する病気が含まれているからです。

佐久医師会の、おしえて!ドクターのアプリやおうちケアの本は素晴らしいのですが、なぜか腹痛の項目がありません。

救急外来を受診すべき腹痛

僕が救急外来を受診すべきと思うポイントは

  • 痛みが強い
  • 激しい嘔吐を伴う
  • 血便を伴う
  • 変に元気がない

というところでしょうか。以下説明を続けます。

腹痛の原因として多いもの

"腹痛は怖い"と言っても、腹痛の多くは実際は急性胃腸炎ノロとかロタとか)や便秘症です。年長児だと起立性調節障害という血圧の調節が上手くいかないことによる腹痛や、過敏性腸症候群なんかもあります。一部に怖いものがあるので、むしろ医療者側が気を付けなければならないと思います。

痛みが強い

急性虫垂炎(一般に"盲腸"と呼ばれる)や腸重積、絞扼性イレウスなど危ない病気の腹痛は激痛であることが多いです。

また、腸重積による腹痛は痛いときと痛くないときの差がはっきりしているのが特徴と言われています。小さい子に多いので、ギャーと泣いて泣き止んでを繰り返すと怪しいなと思います。ただし、腸の痛みはどれも基本的に強くなったり弱くなったりすることが多いです。腸重積はそれが極端な傾向がありますが、例外もあります。

ただ、痛みが強い腹痛で一番多いのは実は便秘です。便秘による腹痛が激しすぎて救急搬送されることも珍しくありません。第100回や112回の医師国家試験でこれに関する問題が出題されていました。第100回の問題だと

小児の腹痛の原因として最も多いのはどれか。
a 便秘症
b 胆嚢炎
c 腸重積症
d 急性虫垂炎
e 鼠径ヘルニア

正解はaの便秘となります。ですから、便秘であることが分かっている場合はまず浣腸や下剤を使ってみても良いと思います。

激しい嘔吐を伴う

ノロウイルスロタウイルスによる胃腸炎でも嘔吐を繰り返しますが、これらでは腹痛は大したことが無い場合が多いです。ある程度腹痛があって嘔吐が激しい場合には危ない病気のことも考えた方が良いと思っています。具体的には、腸重積、腸閉塞などです。また、小児科医誰もが震え上がる恐怖の病気、急性心筋炎でも嘔吐や腹痛で発症することもあります。ただし、心筋炎に関しては診断は困難なことも多いです。

でも実は、嘔吐と激しい腹痛で救急搬送された便秘というのもちょいちょいいますので、便秘は実は大変です。

血便を伴う

血便だけであれば小児でも大人でも痔が多いです。便秘との合わせ技で、腹痛+切れ痔や、というのもあります。ただ、小児で心配するのが腸重積です。腹痛、嘔吐、血便が腸重積の3症状なので、腹痛と血便であれば考えないといけないと思います。他には細菌性腸炎やIgA血管炎などが比較的多いです。また、まれではありますが潰瘍性大腸炎でも腹痛と血便となることもあります。

変に元気がない

この"元気がない"という所見(英語でnot doing well)は、小児で重症疾患を考えながら診療をしなければならない症状と言われています。ちなみに一番最近出会った元気のない腹痛は急性虫垂炎でした。腸重積でもそうなりますし、絞扼性イレウス、急性心筋炎など地雷疾患*1を疑うきっかけともなります。僕は原因が特定できない場合は心精査や造影CTを行うようにしています。

怖い病気

小児の腹痛でまず考える2つが急性虫垂炎と腸重積です。放っておくと怖い病気ですが、治療自体は単純です。急性虫垂炎は外科にお願いしますが、手術であれば基本ですし、実際のところ小児外科では抗生剤で治療することも多いです。腸重積は高圧浣腸という特殊な浣腸で治ることが多いですし、超音波検査をすればほぼ間違いなく見つけることができます。

問題となるのがCT検査をするかどうかです。腹部の超音波検査が上手な医師や検査技師がいればほとんどの病気が超音波だけで診断できますが、一般小児科医では異常を見つけることができた場合は意味がありますが、異常を見つけられなくとも本当に大丈夫かという問題があります。一般的には、急性虫垂炎を疑った場合にCTとなります。ただし、ここに落とし穴があって絞扼性イレウスという怖い病気があります。実は腸重積もその一つですが、先ほども述べた通り腸重積を超音波で見つけることは難しくありません。絞扼性イレウスは、激痛であればCTを撮影するので見つかることも多いでしょうが、胃腸炎のような症状で経過をみていたら急変することもあります。腸がねじれたり穴にはまっていたりして腸に血が行かなくなる状態で、時間がたつと腸が腐り、穴が空いたり、血の中に細菌がばらまかれて敗血症となってしまうことがあります。オダギリジョーさんと香椎由宇さんの次男がこの病気で亡くなっています。

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もう一つの怖い病気が急性心筋炎で、これはウイルスが心臓に感染して起きるもので、劇症型心筋炎と呼ばれるものは急激に心臓が止まってしまう病気です。問題は、原因がいわゆる風邪のウイルスなので、風邪みたいな症状から急に元気がなくなって死んでしまうことがあるのです。この病気も様々な理由から腹痛や嘔吐となることがあります。ただし、早期にこの病気を診断することは難しいことが多いと言われています。

まとめ

  • 腹痛は急性胃腸炎や便秘など怖くない病気が多い。
  • 激痛も実は便秘が多い。
  • 腹痛の裏に急変するような病気が隠れている可能性がある。

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*1:あまり重症っぽくない症状で急変し死亡することもある病気