小児科のあれこれ

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肥厚性幽門狭窄症

一般小児科だと年に1人診るか診ないかという印象なのですが、最近うちで1週間で2例見つかったのでこの話題を。小児栄養消化器肝臓病学と小児外科の雑誌を主に参考としています。

肥厚性幽門狭窄症とは?

症状を簡単に言うと、1か月になる前ごろからマーライオンのような激しい嘔吐を繰り返して体重が増えにくくなる病気です。

マーライオン(シンガポール)イラスト365日より

胃は食道→胃→十二指腸とつながっていきます。食道と胃の間の門を噴門、胃と十二指腸の間を幽門と言います。この幽門は筋肉(幽門筋)で開いたり閉じたりして胃の中の物が十二指腸へと行くのを調節しています。この筋肉が分厚く肥厚し、胃の中の物が胃より先に行けなくなり激しく嘔吐してしまうのです。

出生1000人あたり1~5人とされ、男児は女児の4、5倍多いようです。

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肥厚性幽門狭窄症の原因

詳しい原因はわかりませんが、幽門筋の神経が関係しているとされています。発症に関係する遺伝子がいくつか知られていますが、「この遺伝子が異常だから肥厚性幽門狭窄症になる」という単純な関係ではないようです(多因子遺伝)。また、エリスロマイシンという抗生剤を生まれたばかりの赤ちゃんに投与すると、この肥厚性幽門狭窄症になりやすくなることが知られています。ただ、同じグループ(マクロライド系)の他の抗生剤でどうなるかは一定の見解はないそうです*1

肥厚性幽門狭窄症の症状

胃の中の食べ物を次の十二指腸へと運ぶことができないことで、マーライオンのような激しい嘔吐(噴水様嘔吐)を繰り返し、栄養や水分を吸収できないことで体重増加不良や体重減少を起こします。脱水がひどくなると涙やおしっこが出なくなり、さらに重症となると血圧が下がってしまいます。

生まれた時には目立った嘔吐はなく、通常は生後2~3週ごろより噴水様嘔吐が始まります。

ただ、1か月健診で「嘔吐がすごいんです」と言われることはよくありますが、実際には、単に飲みすぎであったり、空気を飲み込みすぎていることが原因であることが多いです。体重がしっかり増えていれば問題ないことがほとんどです。

肥厚性幽門狭窄症の検査

メインはレントゲンと超音波検査です。特に超音波検査が重要なのですが、慣れた人でないとちゃんと診断できないリスクがあります*2。また、血液検査で脱水や電解質バランスがどうかを確認します。

かつては消化管造影検査も行われていましたが今はほとんど行われません。

肥厚性幽門狭窄症の治療

アトロピンという薬を使う方法と手術とがあります。アトロピンでの治療でも80~90%程度は良くなるとされていますが、治療期間が1か月程度かかることと、いったん治った後に再発する確率は手術より高いです。手術をすると再発はほとんどないそうです。

まとめ

  • 肥厚性幽門狭窄症は胃の出口の筋肉が分厚くなって激しく嘔吐する。
  • 1か月になる前ごろから嘔吐が激しくなるようだったら早めに病院に。

 

参考文献

日本小児栄養消化器肝臓学会編集 小児栄養消化器肝臓病学

小児外科Vol.49 No.1 2017

小児外科Vol.46 No.10 2014

 

 

*1:小児外科Vol.46 No.10 2014

*2:自分が診断した症例も、診断は間違っていませんでしたが、自分は幽門筋の厚さを4mm程度と測定しましたが、小児外科の先生による検査の結果は6mmでした