小児科のあれこれ

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頭痛と救急受診

twitterでちょっと話題となった小児の頭痛問題。

某大学の脳外科の先生が「小児に単なる頭痛はない」と言っていたという話に、小児病院の小児脳神経外科の先生が異議を唱えたという話です。実際、小児でも片頭痛などは年長児になれば増えてきますし、起立性調節性障害(朝礼で気を失うあれです)による頭痛は小児科医であれば非常によく診察します。

ただ、元tweetが発言者ご本人でないので、本当のニュアンスや真意は分かりません。「小児では単なる頭痛と決めつけてはならない」とか、「脳外科に紹介になるような頭痛は検査が必要」という感じだったのかもしれません。

確かに、頭痛だけでなく医療に決めつけは危険です。何らかの原因がある可能性を考えながら調べていく必要があります。しかし、頭痛のことを細かく話すと本一冊出来上がりますし、神経が専門でなく国際頭痛分類について詳しく知っているわけではありませんので、今回は急を要する頭痛について 書いていきたいと思います。

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急を要する頭痛

単純に、激しい頭痛であれば救急受診すべきです。シンプルです(笑)

例外は診断された病名があって、これまでに経験がある頭痛の場合でしょうか。

激しい頭痛に嘔吐が加わる場合、麻痺がある場合には危ない可能性が高いので救急車を呼んでください。

また、自分でできる危ない頭痛の所見として、自分の臍を見ることができるかどうかというのがあります。これは医学的には項部硬直と呼ばれるものですが、これで首の後ろが痛くなれば危ないかもしれません。首を横に左右に振ってみて痛みが強くならないようであれば、怖い病気のなかで髄膜炎などは考えにくいという判断方法もあります。この背景は細かく言い出すと色々あるんですが、今回は省略します。

雑な図ですが、こんな感じです。

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では、頭痛が主な症状となる代表的な疾患を挙げていきます。

脳出血

成人救急では問題となることが多いですが、小児では外傷によるものを除くと少ないです。中規模病院だと数年に1人の頻度です。また、成人の脳卒中では脳梗塞の方が多いですが、小児では脳出血の方が多いです。

突然の頭痛(大人だといつからが明確)であれば疑いますし、麻痺や激しい嘔吐があれば非常に怪しいです。歩きにくい、片手を上げにくい、しゃべりにくい、口の片側から食べ物や飲み物がこぼれるなどがあれば麻痺を疑います。

原因は脳の血管の奇形が約半数で、次に脳腫瘍からの出血が約30%のようです*1。僕の経験症例も、救急外来で診た患者さんはみんな脳血管奇形と脳腫瘍でした。新生児や集中治療の現場も含めるともう少しバリエーションがありますが…

血友病脳出血で発症や、胆道閉鎖症が脳出血で発症といったものもあります。また、場合によっては虐待を考えないといけないこともあります。

脳出血が疑われる場合には安静にしないとさらに出血がひどくなって悪化する可能性がありますから、安静にして救急車の到着を待ってください。

髄膜炎

乳幼児医療での大きなテーマであった「細菌性髄膜炎をいかに診断し、治療するか」は、Hibワクチンインフルエンザ菌b型ワクチン)と肺炎球菌ワクチンの普及により大きく変わりました。細菌性髄膜炎は治療しても約10%が死亡し、生存者の20~30%で脳に障害が残るという恐ろしい病気です。かつては年に1000人程度の小児が細菌性髄膜炎になっていましたが、ワクチン普及後は激減し、経験年数10年未満の医師では、NICUを含めた集中治療や免疫不全、とてもたくさんの患者さんが受診する施設で働く人を除けば、細菌性髄膜炎なんて診察したことがないって小児科医も多いと思います。海外ではその10~20年前からこういったワクチンが普及していたということを考えると悲しくなります。ただし、ワクチン接種前では気を付けないといけないのと、母子感染で重要なGBS(B群連鎖球菌)の髄膜炎が問題となります。また、インフルエンザ菌はb型以外はほとんど髄膜炎を起こさないのに対して、肺炎球菌にはたくさん種類があります。肺炎球菌ワクチンで髄膜炎を起こしやすい13種類の肺炎球菌については予防できますが、それ以外でもまれに髄膜炎を起こすことがあります。細菌性髄膜炎の原因はかつてはHibが1位で、肺炎球菌が2位でしたが、現在はGBSと肺炎球菌が1位の座を争い、Hibはほぼ消失しています。

一方で、無菌性髄膜炎はちょいちょいいます。おたふく風邪や夏風邪のウイルスなんかが原因となることが多いです。おたふく風邪のワクチンの定期接種が始まらない理由の一つにこの副作用があると言われています。海外では麻疹と風疹のMRワクチンおたふく風邪を混ぜたMMRワクチンが一般的なのですが、国産MMRワクチンでは頭痛や髄膜炎の副作用が多く、中止になったという過去があります。ちなみに、国立感染症研究所によると、現在のおたふく風邪ワクチンでは入院が必要な髄膜炎は0.05%なのに対して自然におたふく風邪になった場合には1.24%が入院が必要な髄膜炎となるそうです*2。症状は激しい頭痛と嘔吐が中心ですが、細菌性髄膜炎ほど重症になることは少なく、また、ウイルスはほとんどが特別な治療もできないことから入院しても点滴と痛み止めで経過をみます。2013年には辻希美さんがなったことで話題になりました。

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脳腫瘍

悪性のもの、良性のものなど種類は色々ありそれによって対応やその後は異なります。悪性のものの中の脳幹部グリオーマという脳腫瘍は発見されても有効な治療がなく、放射線治療で一時的には良くなるものの1年以内に亡くなってしまうことがほとんどというとても恐ろしい病気です。がんの中でも最悪かもしれません。僕が診断した患者さんも皆亡くなってしまいました。僕が初めて診断したがん患者もこの病気でした。

脳腫瘍の場合、麻痺や痙攣など頭痛以外の症状がでることも多いのですが、頭痛のみで偶然見つかることもあります。ですから、僕は頭痛だけの場合でも、経過をみて考えられる病気の治療をしても改善しない場合や、だんだんひどくなるなど経過がおかしい場合にはMRIを撮影することにしています。twitterでも述べましたが、僕の中学の同級生は自律神経失調症として経過をみられていたのが実際は悪性の脳腫瘍で診断されて1年以内に亡くなってしまいました。

ただし、脳腫瘍は怖い病気ではありますが、よほど進行しない限り緊急対応が必要な病気というわけではありません。ですから救急外来では脳腫瘍があるかどうかまでは検査しないことが多いです(他の病気を考えて撮影したCTなどに偶然写ることはあります)。

その他 

実際問題として、頭痛の原因で多いのは片頭痛などの大人でもよくある頭痛、副鼻腔炎、起立性調節性障害などです。実はどれも語りだすと長くなる難しい病気だったりします。特に片頭痛は頭痛が激しいことが多く、激しい嘔吐を伴うこともあり、救急受診でCTを撮影することもよくあります。もちろん、大人と同じように風邪をひいたときなど体調不良の時は小児でも頭痛を訴えることがあります。

他にも挙げだすとまだまだありますし、症例報告したような頭痛もあるのですがややこしくなるのでこの程度で終了とさせてください。

まとめ

小児の頭痛でも、特に年長児では一般的な頭痛が多いのですが、危ない頭痛というものもあります。

  • 頭痛が激しい場合
  • 麻痺や激しい嘔吐などの症状を伴う場合

には受診をお勧めします。

国際頭痛分類 第3版

国際頭痛分類 第3版

 

 

 

*1:Warren Lo. Childhood Hemorrhagic Stroke: An Important but Understudied Problem. J Child Neurol. 2011 Sep; 26(9): 1174–1185.

*2:https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2254-related-articles/related-articles-402/3793-dj4027.html