小児科のあれこれ

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咳(とぜーぜー)と救急受診

秋冬に特に多い咳。長引く咳(慢性咳嗽)では診断が難しいこともよくありますが、救急受診のきっかけとなることは比較的少ない印象です。しかし、咳はほとんどの場合呼吸の病気で起きますので、それが重症となると命の危険もあります。では、どういうときには受診した方が良いのでしょうか?個人的な考えが入っていますことご了承ください。

救急受診しないといけない咳

わりと見るものを分類すると下記の6つでしょうか。

  1. 呼吸状態が悪い
  2. ひどいまたは改善しない喘息発作
  3. クループ症候群
  4. ひどいまたは改善しない食物アレルギーの咳
  5. 咳があまりにひどい
  6. 他の症状が悪い

6.は咳と直接関係ないことなので、それ以外について述べていきたいと思います。

1. 呼吸状態が悪い

病院だと色々な検査ができますが、家ではできません。なので、呼吸の様子や見た目で判断しなければいけません。注目する点は

  • 咳の性質
  • 喘鳴(ぜーぜー、ひゅーひゅー)
  • 呼吸しているときの様子
  • 呼吸回数(難しいかも)
  • 皮膚の色
  • 話すことができるかどうか

などが代表的です。

咳の性質

犬が吠える感じの咳(犬吠様咳嗽)やオットセイの鳴き声のようであれば、クループ症候群を疑いますので受診すべきです。詳しいことは後で述べます。

喘鳴

ゼロゼロ、ゴロゴロ、ゴーゴー、ヒューヒューなど呼吸しているときに聞こえる音です。聴診器を当てないでもこれが聞こえるようだと呼吸があまりよくない可能性があるので受診した方が良いです。(鼻のつまりが原因のこともありますが…)

ただし、喘鳴がある状態で受診したことがあって悪くなっていないなら経過をみてもよいでしょう。

細かく言うと、息を吸うときに聞こえる吸気性喘鳴と、息を吐くときに聞こえる呼気性喘鳴があります(両方聞こえることもあります)。

吸うときの喘鳴は気管が枝分かれする前の空気の通り道(上気道)の異常を考えるので特に危険かもしれません。肺の一部が悪くてもすぐにどうこうはなりません。手術で肺を片方とってしまうこともありますしね。しかし、のどの奥~気管が詰まるとすぐに命に関わります。

吐くときの喘鳴は、喘息やRSウイルスなどでおきる細気管支炎が代表的で、主に気管支など気道のわりと細い部分の異常で起きます。

呼吸しているときの様子

まずは陥没呼吸です。下のイラストのように首や鎖骨の上、肋骨の間、みぞおちの所などがへこむ呼吸で、かなり苦労して呼吸しているときの症状です。これは危険なのでぜひすぐに受診してください。

〇陥没呼吸のイラスト

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  自作イラスト

他にもやたらと頑張って呼吸している場合、普段と比べ口からだらだらよだれを垂らしている場合なんかは危険信号です。横になることができないで座っていることを起坐呼吸と呼びますが、ごれも良くないサインです。

ここら辺の症状が強く、非常に苦しそうな場合、チアノーゼがある場合には救急車を呼ぶことを考えた方が良いかもしれません。

呼吸数

呼吸数が速い場合は呼吸障害が強い可能性があります。一回の呼吸で十分呼吸できないからそれを数で補うためです。

ただ、呼吸回数をちゃんと測定するのは難しいこと、熱や痛み、ストレスなんかでも速くなることから家庭で評価するのは難しいかもしれません。

皮膚の色

唇が青くなったり、顔色が悪くなっているチアノーゼでは、血液中の酸素が減少している可能性があります。苦しそうでここら辺の症状が出ている場合は危険なので救急車を呼ぶことをためらってはいけません。

話すことができるかどうか

呼吸が苦しいと話すことができないことがあります。これは喘息の重症度評価の基準にもなっています。また、話そうとしても声が出ない場合にはのどの奥が腫れて窒息しかけている可能性があります。なので、ここら辺の症状も救急車を考えてください。

2. ひどいまたは改善しない気管支喘息

喘息発作で発作対策の薬を処方されている方は、それを1回使って改善しない場合やすぐに再発する場合には受診しないといけません。

あとは、喘息発作の強度が問題で、喘鳴が激しい、会話が難しい、横になることができない、陥没呼吸が目立つ、 意識が悪いか興奮しているなどがありましたら、強い発作のサインですので救急車を呼んでください。

3. クループ症候群

 クループは元々はジフテリアという病気の症状についた名前で、それに似た症状を起こすものもまとめてクループ症候群と呼びます。ジフテリアは四種混合ワクチンであるDPT-IPVの"D"の部分ですが、日本においては1999年に最後の患者が出たという病気です*1。ですから、現在「クループ」と呼ばれるのは、それ以外の病気になります。大事なのは症状で、犬吠様咳嗽と呼ばれる犬が吠えるような、あるいはオットセイの鳴き声のような咳が特徴的で、程度が強いと息を吸うときの喘鳴(吸気性喘鳴)や陥没呼吸を伴います。また、声もかれることが多いです。"baby with Croup Stridor Barking Cough visual & audio sound"(吸気性喘鳴と犬吠様咳嗽を伴うクループの赤ちゃんの見た目と音)という動画がyoutubeにupされており、イギリスの医療系HPにも引用されていました。言葉で説明するよりこれを見た方が早いと思います。


baby with Croup Stridor Barking Cough visual & audio sound

この病気は上気道に原因があるので、そこが詰まると死につながる危険な状態かもしれないと考えることが重要です。

ただし、圧倒的多数はウイルス性クループで、一般的には風邪の原因となるウイルスや、RSウイルス、インフルエンザウイルスなど様々なウイルスがきっかけとなります。気管の細い幼児までに多く、大きくなると起こしにくくなります。ただ、体質によって繰り返したり、大きくなっても風邪でクループ症候群となる人もいます。アレルギーが関係することもあります。この場合は多くはあまり重症にはなりませんが、患者さんはとても苦しいので受診した方が良いです。

危険なものとして急性喉頭蓋炎があります。喉頭蓋という部位に細菌が感染して腫れることで呼吸困難になる病気です。声も出なくなり、唾液も飲めなくなるのでよだれがだらだら出てくるのが特徴とされています。この病気は急に呼吸ができなくなって死亡原因となったり、命を助けるために気管に管を入れる気管内挿管という方法が難しく首にあなをあける気管切開をしないといけないことがあったりと怖い病気です。そんなに悪くなさそうな状態から急変する地雷疾患と呼ばれることがあります。ただし、日本においては、小児の急性喉頭蓋炎は元々少ない病気ですし、この病気の原因はほとんどがインフルエンザ菌b型(Hib)ですので、Hibワクチンの普及により小児の急性喉頭蓋炎の予防も期待できます。小児の喉頭蓋炎が多かった国でHibワクチン後約90%患者が減少したという話もあります。しかしながら、こういった重度のクループ症状がある場合には救急搬送が良いと思います。

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  Illust ACより

 他にも細菌性気管炎などがありますが、代表的なものは以上です。

4. ひどいまたは改善しない食物アレルギーの咳

食物アレルギーで咳が出ることがあります。喘息患者さんは食物アレルギーきっかけで喘息発作が出ることもあります。アレルギーの原因食材を食べて咳が出た場合には食物アレルギーを考えます。食後2時間以内に発疹とともに咳が出た場合なんかも食物アレルギーを疑います。また、食後2時間以内に運動をした場合や体調不良の場合などでは、普段は食物アレルギーが出ない人でもアレルギー症状が出現することがあります。

もし、食物アレルギーによる咳かな?と思った場合は、手持ちのアレルギー薬がある場合はそれを内服してください。それでしばらく様子を見ても改善しないまたは悪くなっていく場合には受診しましょう。咳が一、二回出ただけ、または単にむせただけならひとまず様子をみても良いでしょう。

食物アレルギーで咳が激しかったり、喘鳴があるなど症状が強い場合にはアレルギーが重症となってアナフィラキシーとなっている可能性もあります。手持ちにアレルギーの薬があればそれを内服して、エピペンがあればそれを注射して救急車を呼んでください。

5. 咳があまりにひどい

以上に当てはまらなくても、咳があまりにひどくて眠れない、飲み物も飲めないという状態がしばらく続く場合も受診した方が良いと思います。

まとめ

喘息、クループ症候群以外の咳での救急受診は少ない印象ですが、そもそも、クループ症候群は知らないとびっくりするだけですぐに受診しないといけないか分からないことが多いと思います。

呼吸器の病気は重症だと命に関わりますから、危なそうと思ったら受診してみた方が良いかもしれません。