発熱で他の症状が無いときに小児科医が気にするのはまずなんといっても尿路感染症のなかの急性腎盂腎炎です。次に急性中耳炎でしょうか。それぞれ疑って検査をしないと診断できません。小児科で熱がある子にやたらと尿検査をするのは腎盂腎炎を見逃さないためです。
ただし、実際にはいわゆる「風邪」の初期が多いので、おもに熱が出て2日くらいたっても咳や鼻水が出ない場合に疑います。
もちろん、がんや膠原病、自己炎症性疾患などのレア疾患の世界もありますが、他に全く症状が無い状態で最初にここを疑うことはまずありません。
急性腎盂腎炎
腎臓の腎盂というところに細菌が感染することで起こります。普通は尿道の外にいる菌が原因となります(尿道を通って膀胱に、そして尿管を通って腎盂に来る)。なのでウンチの中の菌が原因になることが多く、大腸菌が70~90%です。尿路感染症は通常は女性の方が多いですが、乳児頃は男児の方が多いようです。また当然ながら、年長児より、おむつの時期の方がなりやすいです(そこにウンチがあるから)。尿路感染のうち、尿道炎や膀胱炎では通常は熱は出ませんが、腎盂腎炎となると熱が出ます(腎臓でおしっこが作られ、腎盂というとこに集められ、尿管を通って膀胱に尿がたまります)。
検査の基本は尿検査で、中でもおしっこの中に細菌がある、細菌尿を見つけることです。他におしっこの白血球が多かったり、亜硝酸塩という物質が出てきたりというのも参考になります。中間尿という、「最初におしっこを少し出して捨ててそのあとのおしっこをコップにとって検査に出す」というおしっこの採り方が検査の基本ですが、小さな子では難しいか無理です。その場合にはパック尿と言って、尿取り用の袋を貼り付けておしっこが出るのを待つという方法がありますが、正確性が良くないのでちゃんと診断するときには尿道に管を入れておしっこをとる必要があります(カテーテル尿)。
この時に、抗生剤をすでに投与されていると細菌が分からなかったりしますので、抗生剤を投与するならその前に検査をすることが大切です*1。
また、超音波検査も行うことが多いです。上手な人だとそれで急性腎盂腎炎を診断できることもありますし、この検査で腎盂腎炎の原因となるような異常が見つかることもあります。
小児は症状が大人より分かりにくく、熱だけのことも多いです。他には腹痛や嘔吐、下痢なんかもあって胃腸炎と勘違いされることもあります。
治療は子供の場合は基本的に入院して抗生剤を点滴します。
急性腎盂腎炎を繰り返す場合
問題となるのは、急性腎盂腎炎を繰り返すような仕組みがある場合です。繰り返してしまうと腎臓にダメージが蓄積して機能が落ちてしまいます。腎臓の細胞は再生しないので細胞が死んで機能が下がると回復しません。急性腎盂腎炎を繰り返す原因として一般的なものに、水腎症と膀胱尿管逆流症(VUR)があります。水腎症は何らかの理由で腎盂がぱんぱんにふくれる病気で、代表的な原因は尿管が狭い場合と膀胱尿管逆流症がある場合があります。ただし、水腎症はよほどひどくないと単体で急性腎盂腎炎を繰り返すことはあまりないといわれています。膀胱尿管逆流症が急性腎盂腎炎を繰り返す原因として一番多い病気です。尿は尿管から膀胱へと溜められていきますが、逆に膀胱から尿管へは行かないような構造になっています。このしくみが上手く機能しなくて、簡単に膀胱から尿管に尿が逆流してしまうのを膀胱尿管逆流症(VUR)といいます。
逆流症を疑った場合には、尿道に管を入れて造影剤というレントゲンに写る物質を流し込んで逆流があるかを調べます。
水腎症も膀胱尿管逆流症も小さい子だと自然に改善することもありますが小学生などではまず改善しません。また、便秘が原因で逆流症となることもありますので、便秘に注意が必要です。
そして、水腎症や逆流症がひどい場合にはそれだけで腎機能が落ちてしまうこともあります。腎盂腎炎を繰り返す場合には少しの抗生剤を飲んでもらって再発を予防することが多いです。
抗生剤で予防できず感染を繰り返す場合、腎機能が下がってしまう場合、自然改善が期待できない場合などに手術となります。
なので、後遺症を残さないため、必要な場合には早めに手術をするためにも急性腎盂腎炎を適切に診断する必要があります。そしてそのためには熱だけの症状の場合には疑って尿検査を行うことが重要です。
実際に、便秘の小学生の初回の急性腎盂腎炎を治療した後に検査をしたら、膀胱尿管逆流症と、腎臓に傷が見つかったことがありました。よく話を聞くとそれまでにも熱が突然出て抗生剤で治まったことが何度かあったが、尿検査はしたことが無かったとのことでした。おそらく腎盂腎炎を繰り返していたのでしょう。
参考文献:
島田憲次『泌尿器科医、小児外科医、小児科医も使える小児泌尿器疾患診療ガイドブック』
古市宗弘, 宮入烈. 尿路感染症. 小児科診療 80(2): 211-215, 2017.
急性中耳炎
本当は耳鼻科の病気ですが、小児科が治療することも多い病気です。鼻と耳(中耳)とは管でつながっていて、鼻水がたくさんあり鼻づまりがあるときなんかに細菌が増殖して急性中耳炎になることが多いです。また、構造の問題なんかもあって中耳炎になりやすい子もいます。中耳炎の原因は昔はウイルスがメインと言われていましたが、今は細菌だといわれています。この勘違いの原因は、アメリカの小児科医が適切に中耳炎を診断できていなかったためともいわれています。
実際、僕は、風邪を診るような小児科医で耳の中をのぞかない医者はモグリと思っていますが、小児科医の鼓膜の観察を信用していません(自分も含めて)。小児科は耳鼻科とは使っている器具も違いますし、ひたすら耳を覗いて勉強をしている耳鼻科の先生と同じぐらい診察できると考えているならそれは傲慢だと思っています。
ベテランの小児科開業医が「中耳炎はありません」と紹介してきた患者がひどい中耳炎で鼓膜切開になったことや、自分が中耳炎があると思ったら耳鼻科診察で否定されたこともあります。(一番ひどいのは中耳炎があるけど大したことが無いと開業医耳鼻科に言われたのに、耳の後ろが腫れて耳が起き上がる感じになっていてどう考えても中耳炎が悪くなって耳の周りまで炎症が広がった状態でうちの耳鼻科に紹介したら「ひどい中耳炎と乳突蜂巣炎」と診断されたことですが…)
また、耳垢の問題もあって、「危険だから小さい子の耳掃除は素人がせずに耳鼻科に任せろ」というような内容を前にいた耳鼻科の部長に言われて以来それに従っています。耳垢で鼓膜が見えないことは多いです。
しかし、誰が見ても中耳炎というのはあり、はっきり診断をする必要性が低い場合もあることから日々耳をのぞいています。
症状は、耳の痛み、違和感、聞こえにくさですが、小さい子だと不機嫌や耳を触るぐらいしかなくて、無症状のこともあります。鼓膜に穴があいて膿が出てくることもあります。
治療は、軽症なら経過観察、改善しない場合や中等症以上で抗生剤をとなっています。場合によっては鼓膜に穴をあけて膿を出してあげる鼓膜切開をすることもあります。
特に小さい子の場合に聞こえにくさが長引くと、言葉を覚えるのに障害となるのでちゃんと治ったことを確かめることは重要となりますので、僕の場合は診断して治療をしても耳鼻科に受診することをお勧めしています。