小児科のあれこれ

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発熱と救急受診

小児の救急受診での発熱についてまとめました。長期的な発熱についてはまた別の機会に… 

小児の受診は「熱が出た」が多い

小児の救急受診の主訴(受診のきっかけとなった症状)のNo1.は発熱です*1。時間外受診でも「さっきから熱がでた」など1日以内の発熱で受診される方は多いです。長年24時間小児救急病院に勤められた先生は「新型インフルエンザ騒ぎのときに熱に気を付けようという報道が増えて時間外受診者数が急増した」とおっしゃっていました。

根本的に熱に対する恐怖があるようですし、初めての子だと心配で仕方が無いと思います。しかし、経験があるお母さんは、子供は良く熱を出すということも分かっていると思います。時間外に行くことは待ち時間も長いことが多く大変ですし、そこで別の病気をもらうこともあります。インフルエンザが心配で行ったけど、インフルエンザじゃなくて、そこでインフルエンザをもらってきたということも十分あり得ます。

では、小児科では子供の熱と救急受診をどう考えているのでしょうか?

救急受診をすべき発熱

①3か月未満の発熱

②他の症状がひどい

熱中症

④熱が長い(GWや年末年始など長期に病院が閉まっている場合)

の時には早めに受診すべきと考えます。

逆に単に高熱であるだけであれば緊急性はありません。小さい子の発熱で40℃になることはよくあります

それぞれについて解説します。

①3か月未満の発熱

3か月未満は自分自身の免疫力が弱い点、体の構造も色々と未熟なことから重症化しやすいとされています。咳や発熱などの症状も本来は体の防御機能なのですが、それも未熟なので症状自体が出にくいです。例えば、咳が出ないけど肺炎だったというようなことがあります。もちろん、意識の評価や詳しい症状の把握も困難です。

もう一つ大きいのが、ワクチンの問題です。乳幼児にとって重要なワクチンにインフルエンザ菌b型(Hib)*2、肺炎球菌があります。これらは肺炎や中耳炎、副鼻腔炎(ちくのう症)の原因で、成人肺炎球菌ワクチンは肺炎予防が目的です。しかし、乳幼児のHib、肺炎球菌ワクチンの最大の目的は細菌性髄膜炎の予防です。実際にこれらのワクチンが開始されてから細菌性髄膜炎は激減しました*3。したがって細菌性髄膜炎はあまり見ない病気となりました。このワクチンの開始は2か月からなので、3か月までは十分に免疫がついていない可能性があります。また、脳の防御機能も未熟で、脳に細菌が行きやすいとも言われています。ですから細菌性髄膜炎のこともしっかり疑わないといけません。

また、お母さんから感染して重症感染症を引き起こすB群溶連菌(GBS)の感染症のうち、遅発型と呼ばれる遅れて起きるタイプとなることもあります。

ただし、小児科のバイブルであるネルソン小児科学(内科だとハリソンに相当)では、3カ月未満の発熱の約90%はウイルス感染(多くは軽症)だが、約10%に重篤感染症が含まれているとされています*4ので、「3カ月未満の発熱=死んだり、障害が残る」というわけではありません。評価に慎重になる必要があるのでしっかり診察し、検査をする必要があるということです。

また、体温調節が下手な年齢であるため、うつ熱という温まりすぎで発熱という場合があることには注意する必要があります。着せすぎたかな?暑すぎたかな?と感じたら、常識の範囲で涼しくして(氷で冷やしたりはやめてください)体温を測定しなおした方が良いでしょう。

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3カ月未満の発熱では時間外救急病院を受診しても、トリアージシステムで優先順位をつけているところでは優先的に診察してもらえるはずです。そして、通常は血液検査、尿検査、レントゲン検査を行い、背中に針を刺す髄液検査(髄膜炎の検査)を行う場合や入院となる場合も多いです。

②他の症状がひどい

多くの場合、熱だけでなく他の症状があります。小さい子だと、言えないからわかりにくいかもしれませんね。咳、鼻水、のどの痛み、嘔吐、下痢、おなかが痛い、食べられない、飲めない、痙攣、意識が悪い、泣き続ける、発疹などなど。

熱自体では問題とならないことが多いですが、こういった他の症状が強い場合には早めに受診すべきです。咳が激しい、息苦しそう、頑張っても水分が摂れない、嘔吐を繰り返す、やたらと痛がる、泣き続けるなどです。また、痙攣が長引く、意識が悪い、非常に息苦しそうという場合は救急車を呼んだ方が良いと思います。

熱中症

脱水と周囲の温度が高くなることとで体の温度が本来あり得ない高温となることがあります。熱中症は、軽度で自分で水分摂取でき、改善していくようなら問題ありませんが、意識障害、高体温の場合は救急車を呼んでください。

④熱が長引く(GWや年末年始など)

多分、流派もあるのでしょうが、僕が受けた教育だと「4日目の発熱であれば血液検査をしよう」と習いました。「そんなに長引くなら、風邪でなくなんかの原因があるかもしれない」という考えです。熱だけで他に症状が無い場合は急性腎盂腎炎を考えて尿検査を行う必要がありますし、川崎病だと熱が出て1週間だとちょっと治療が遅めになってしまいます(詳しくは、他に症状のない発熱の記事https://www.blog.takkuna.com/entry/2019/09/19/234006川崎病の記事https://www.blog.takkuna.com/entry/2019/09/10/004115をご参照ください)。

ただ、他の症状が悪くなければ1日の遅れなら心配しなくて良いことが多いです。通常は土曜日は開業医さんがやってますので、全身状態が問題なければ日曜日は様子をみて月曜日に受診してもらうのでかまいません。

問題はGWや年末年始など病院が閉まっている期間が長いときで、こういう時は熱が長引いたら受診してもらった方が良いと考えています。患者さんが多いので大変でしょうが…

個人的な意見では、交代勤務を徹底することで大きな病院は365日あけるべきだと考えています*5し、他の病院も金土を休みにする病院と日月を休みにする病院とを分けるなどで受診しやすくした方が良いと思いますが…現実はそうではありませんよね。

*1:廣田ら:日本小児看護学会誌2007. Vol.16やhttp://plaza.umin.ac.jp/~ehara/my_paper/rinsho51_2303_1998.html

*2:インフルエンザ菌は病気のインフルエンザの原因ではありません。ウイルスは顕微鏡で見ることができないため、インフルエンザの原因と勘違いされてこんな名前になりましたが、そのまま改名されずややこしい状態が続いています。b型は重症感染を引き起こすタイプで、髄膜炎の他に急性喉頭蓋炎という恐ろしい病気の原因としても知られています。

*3:国立感染症研究所HPだとhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/pneumococcal-m/pneumococcal-iasrs/4242-pr4082.html

*4:ネルソン自体は海外の教科書なので、医療事情が異なり、疫学や薬など日本にそのまま当てはめることはできない部分もあります。自分が持っているのは英語の原書なので翻訳版だと注釈があるのかもですが。

*5:正直な話を言わせてもらうと、病院の医師(特に中堅以下)はカレンダーの休みの日をちゃんと休んでいることは少なく、慣習と無言の圧力で1日1回は病院に来ていることが多いです。また、日直や当直の時に本来はすべきではない外来診療もしています。でも、検査は休日対応なのでできる検査が限られます。検査会社は休みです。患者さんは「休みの日だから重症にならないでおくね」なんてことはないので、連休中に検査ができないとイライラします(笑)