小児科のあれこれ

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ロタウイルス(ワクチン定期接種化記念)

ロタウイルスワクチン定期接種化

ロタウイルスワクチンが定期接種になりました。流行力が強く、胃腸炎で入院する小児はロタが多いので利益を得る人はそれなりにいると思います。

ただ、ロタワクチンが開始して10年未満なのに昔から問題となっている、おたふく風邪のワクチンより先に定期接種になったのは意外でした。

これで小児科の患者はさらに減ることでしょう。どうせなので難病、救急とかに集約化して勤務医一人一人のQOLを上げたらよいと思います。というより、重症や難病を診ている人は報われてほしい… 今は違いますが小児がんや難病、希少疾患ばかり見てた時期があって、そのときのトップは移植医療していると赤字になるって言ってましたが、それは間違っていますよね…

今回はロタウイルス感染症について簡単なとこをまとめてみます。

(当初スマホより自分の知識のみで記載したため、2019/9/15に参考文献など追加して修正)

ロタウイルス感染の基本情報

ウイルス性胃腸炎の代表です。ウイルス性胃腸炎ロタウイルスノロウイルスが有名ですが、他にエンテロウイルス性、アデノウイルス性なんかがあります。

ロタはノロ同様感染力が非常に強くて、うんちや嘔吐物に触れてそれが口に入っての感染だけでなく、その成分が空気中にただよって空気感染もするとされています。ごく少量のウイルスからも胃腸炎になるのです。ですから、空気感染疾患以外は、他は感染者や汚染物から直接じゃないと感染しにくいのですが、ロタは感染者じゃない人が運んで別の人に感染させることがあるとされ、病院でも問題となります。また、ノロ同様アルコールはあまり効果がありません

ロタウイルスに感染すると、だいたい2, 3日で発症します。

また、5歳までに少なくとも一回は感染するとされています。大きくなるにつれて何回か感染し、抵抗力ができてあまり重症化しなくなります。なので、ワクチンができたわけです。大人ではあまり問題とならないとされていますが、明らかにうつされたお父さんが意外と苦しむこともあります。昔ほど子供と接しなくなって免疫が落ちているのでしょうか?もちろん個人差があるのでうちの子はロタになったことがないという人は初回から軽かったということだと思います。

ちなみにノロはロタより種類が多く、免疫がつきにくので小児と成人とで症状は同程度とされています。でも小児科医は尋常でないノロ患者と接触するので免疫がつくようです。ノロ腸炎になると「修行がたりない」と言われたりします(笑)

ロタウイルス腸炎の症状

腸炎なので、嘔吐、下痢、発熱がメインです。感染性胃腸炎は感染の経路から、嘔吐で始まり(胃)、下痢になる(腸)とされています。研修医に人気の福井大学の林寛之教授は、小児救急学会で、嘔吐のあとに下痢になってようやく、その嘔吐が感染性胃腸炎によるものと判断できると言っておられました。近くの小児消化器の有名な先生は異論があるようでしたが…(笑)

下痢は白っぽい(白色下痢)というのが有名ですが、必ずしもそうとは限りません。レモンイエローって人も多いです。また、激しいウイルス性胃腸炎だとロタ以外でも白色下痢となることはあります。これは肝臓から分泌され、十二指腸に出る胆汁という消化液が上手く分泌されなくなるからです。また、腸の炎症がひどくなることで、腸が動かなくなる腸閉塞(麻痺性イレウス)になることがあります。こうなると、むしろ下痢があまり出なくなって嘔吐、腹痛が長続きすることになります。問題は症状が長期化しがちなことで、嘔吐が続いたりで一週間ぐらい十分に水分が摂取できなくなる子(当然入院となります)や、カロリー不足で低血糖になって意識障害や痙攣を起こす子もいます。小児はカロリーの蓄えが少なく、低血糖になりやすいので、経口摂取が減ったときには、水分、塩分とともに糖分にも気を付けてください

発熱も激しく、40℃になることはざらです。一度、朝に近くの開業医さんにロタと診断され、帰宅後に40℃になって不安になって救急車を呼んだって人がいました。が、普通のことですし、一般的に小児の40℃は珍しくないのでそのこと自体で問題となることはありません

治療

基本的に水分摂取を頑張ります。食事はしなくて良いですが、食事の水分は意外と多いので注意が必要です。また、熱中症予防と同じく脱水対策には塩分も大切です。スープ、味噌汁など、塩分が摂れれば、あとは水やお茶でも良いですが、そうでない場合には最低スポーツドリンクなど脱水対策のドリンクを摂るようにしてください。これには糖分もあるので低血糖予防にもなります。

どうしても飲めない場合、脱水が強い場合には点滴をします。

下痢に対してはビフィズス菌の薬などを使うくらいです。あと、オムツかぶれとなったら軟膏を使います。

ロタウイルス感染症の合併症

先程述べた麻痺性イレウス低血糖の他に問題となる合併症として腸重積、熱性痙攣、胃腸炎関連痙攣、尿路結石、脳症などがあります。

腸重積

なんらかの原因で腸が「重積」してしまう病気です。腸炎に続いて起きることがありロタでも起きることがあります。ニンニクの皮剥き用のシリコンチューブで説明すると、
f:id:takkunatonnbo:20190914224640j:image筒状の腸が
f:id:takkunatonnbo:20190914225055j:image重なりあって
f:id:takkunatonnbo:20190914224706j:image閉塞します。

この結果、腸閉塞に重積部分の血流不足を伴う絞扼性イレウスと呼ばれる状態になります。緊急疾患で、放置すると急変し生命の危険もあるかわりに、早期であれば大がかりな浣腸(高圧浣腸)で治ります。症状は腹痛(不機嫌)、嘔吐、血便が代表ですが、血便は遅れて出てきます。腹痛がすごく波があるのが特徴で、ギャーと泣いて泣き止んでを繰り返すと怪しいです。超音波検査をするとほとんどの場合で診断できます。

参考:日本小児栄養消化器肝臓学会編集『小児栄養消化器肝臓病学』p324-326

腸炎関連痙攣

腸炎の時に熱がないときでも痙攣が起きることがあり、しばしば複数回痙攣します(群発)。その時、この胃腸炎関連痙攣のことが多く、てんかんとは別で基本的に良性とされています。電解質バランスかなんかが原因ではないかと言われてますが、詳しくは不明です。治療が特殊で、多くの場合にカルバマゼピンという薬を一回内服すると繰り返さなくなるということが知られています。逆に痙攣群発を診療するととても緊張しますが、便検査でノロやロタが陽性になるとちょっと安心します。

参考:高橋幸利編『新小児てんかん診療マニュアル』p84

尿路結石

脱水が強くなり尿酸が高くなり尿路結石ができることがあります。左右1本ずつある尿管という部分に両方石ができて腎不全となった子もいました。ただしかなりまれです。

脳症

なんらかの炎症物質が多量に作られ、脳に障害が起きる怖い病気です。これもまれです。

ワクチンについて

弱らせたウイルスを使った生ワクチンというタイプです。なので次のワクチンまで4週間あける必要があります。腸での免疫を高めるために飲むワクチンとなっています。二回のタイプと三回のタイプがあり、内容に細かい違いはありますが、現時点の総額は両方とも三万円くらいです。

副作用

アレルギーはありえます(食べ物でもありますしね)。また、生ワクチンなので軽い胃腸炎になることがあります。そしてその合併症として腸重積となる確率がわずかにあるということが知られています。数万人から10万人に1人とされます*1。ただ、この子達は普通にロタになっても腸重積になったかもしれません。ただし、小さくて腸重積になると治療には気を使います。小児外科のある病院での加療が望ましいと思います。

接種時期

で、この腸重積が原因で、ロタワクチンは現在任意接種なのに接種期限があります。一般的に腸重積は6ヶ月ごろから増え始め幼児期に多いので、それまでに接種を終え、リスクを下げようとしています。具体的には、一般的なスケジュールだと、二ヶ月の初回ワクチン(ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎)か、三ヶ月の二回目(ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎、四種混合)と一緒に開始することになります。一歳になって接種したいと思ってもできません。お気をつけください。

(日本小児科学会のパンフ:http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_13Rota.pdf

 

厚生省サイト

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html

*1:代表的な論文はN Engl J Med. 2014 Feb 6;370(6):503-12.