小児科のあれこれ

地方の小児科で感じたこと、勉強したこと、本やグッズのレビューなど

RSウイルス感染症

RSウイルスが流行

この地域でRSウイルス感染症が流行しています。

7月にちょっといたもののお盆前には全くだったので、お盆期間に輸入されて流行したものと思われます。

かつては秋から冬という病気でしたが、今はわりと夏から出始めます。温暖化などのため「亜熱帯型」の流行に変わってきたのではと言われています。

そのため、RSウイルス感染症が重症になる可能性が高いからと流行期に抗体を注射している患者さんが、接種開始前にRSウイルス感染になってしまうことがちらほらあります。

小さい子がRSウイルス感染症になると咳や鼻水がひどくなったり、長期化したりで入院する可能性が高くなるので大変です。RSウイルスがはやると小児科入院患者は一気に増えます。

良い薬の登場や定期接種ワクチンが増えたおかげで小児の入院患者は減少し、病院では普段肩身が狭い思いをしているのですが、この時期は本当に急に増えるので入院病床の確保に本当に苦労します…

  

RSウイルス感染症について(私見を含みます)

RSウイルスは一般的には「風邪」のウイルスです。

小学生以上では基本的に重症化しない*1のでそもそも検査されません。ですから、子供がいる人や乳幼児に関わる職業の人以外は知らない人も多いかもしれません。

ただし、1歳前後以下に感染するとしばしば咳、痰、鼻水がひどくなって喘鳴(ゼーゼー、ゴロゴロ)が目立つ状態になります。実際には、2歳までにほぼ100%が1回はRSウイルスに感染するといわれているので、「うちの子はRSウイルスにかかったことがない」って場合、「風邪」ですんだというところなのでしょう(同じようなことがロタウイルスにも言えます)。

インフルエンザなんかと同じで近くの人の咳などで感染します。潜伏期間は1週間程度とされます。通常は症状がではじめて大体4、5日目が症状のピークとなります。でも、合併症がある場合には遅れてピークが出ることがあります。

RSウイルスがいったん解熱しかかってたのに再発熱して、中耳炎や細菌性肺炎を合併してたというのは病院だとよく経験します。

f:id:takkunatonnbo:20190906224425j:plain

抗RSウイルス薬はない

RSウイルスの一番の問題点は、ある意味インフルエンザよりやっかいなのに、ウイルスを直接殺す薬が無いことです。基本的に悪くなるのを食い止める方法がありませんし、早く治す方法もありません。教科書では痰をしっかりとってあげて、水分が取れない場合は点滴などで補充し、呼吸が悪くなれば酸素投与など*2で助けてあげて治るのを待つということになります。

色々な治療が「良いのでは?」と言われて、その後「やっぱそうでもなかった」となっているのが現状です。

ウイルスなのでRSウイルス自体に抗菌薬(抗生剤)は効きませんし、ステロイドも有効ではありません*3

前述した通り、実は予防注射があります。パリビズマブ(商品名はシナジス)といいます。一般的なワクチンとは違ってRSウイルスへの抗体を注射して抵抗力をつけます*4。ただ、かなり高価(7kgぐらいの子に使う100mgが約12万円)なので対象者が限定されています*5

 

参考資料:笠井正志、伊藤健太『小児感染症のトリセツREMAKE』

     岡部信彦『小児感染症学 改訂第2版』

  

*1:ただし、大学病院でがんや免疫不全、膠原病を診療していた時に読んだ免疫不全の感染症の本(『チャンドラセカール 移植・免疫不全者の感染症』)では成人のRSウイルス感染症について記載がありましたので、免疫不全の状況では重症化するようです。この本は、人気の感染症の本を読んでわかった気になっている医師におすすめです。検査と治療てんこ盛りの感染症の世界が広がっています。

*2:ひどい子だと人工呼吸器を使わないといけなくなることもあります。自分の経験だと、人工呼吸器を使う子は生後1か月の子が多かったです。生後1週間とかの小さい子のRSウイルス感染症もときに診察しますが、自分の周りではなぜか人工呼吸器は回避できています。

*3:喘息発作(増悪)の合併が疑われる場合に使用するという考えもありますが、RSウイルスの喘息にステロイドは有効でないという話もあるようです

*4:普通に考えると治療にも使えそうですが、効果がないことになっています。ただ、接種対象者がRSウイルス感染になった時に予定通り接種したところ、劇的に症状が改善することをしばしば経験したと本で述べている著名な先生もいらっしゃいます。

*5:早産児、先天性心疾患、慢性肺疾患、ダウン症候群、原発性免疫不全症が対象となっています。ベテランの先生にきくとシナジスが始まってから超重症がかなり減ったとのことです。