小児科のあれこれ

地方の小児科で感じたこと、勉強したこと、本やグッズのレビューなど

救急病院のレビューに思う

各病院にどういう医師がいるか、「~先生まだいるかな」などを調べるときにグーグルで病院名を検索するとグーグルマップのクチコミの星が目に付きます。そして、クチコミを読んでしまうことも結構あります(笑)

f:id:takkunatonnbo:20190913222525p:plain

例えば、これは小児科の間では救急外来を中心とした小児救急で有名で、全国から小児科医が勉強に来る北九州市立八幡病院(福岡県)を検索したものです。昨年亡くなった前院長の市川先生は長年日本小児救急医学会の理事長を務められました。

時間外救急を多く扱う病院ほどクチコミの平均点数が低い傾向があるように思います。うちの県でもそうですが、そういった病院は受診者数が場合によっては文字通り桁が違ったりします。すると不満も多く、満足している人よりは不満に思う人の方がわざわざクチコミをする気になる傾向があるんだろうとは思います。

気になったのは、小児救急病院の不満のクチコミの内容についてです。

①「救急で来たのに待ち時間が長い」系

これは仕方がないです。救急病院の多くはトリアージという重症度評価をしていて、重症の可能性が高い患者を優先して診療するようにしています。特に時間外はどうしても人や検査には制限があるので優先度をつけざるを得ません。トリアージナースというものを置いて、その判断に医師も従うという方式を東京の成育医療研究センター(小児専門)が採っていて、それにならっている病院が多いのではないかと思います(その病院の救急の出自を考えると、元はトロント小児病院あたりのシステムなのでしょうか?)。熱性けいれんで救急車を呼んで病院に来たとしても、病院に到着した時に落ち着いていたらそのまま待ちます。前述の八幡病院は複雑めなトリアージ基準を使用しています。

そして現実問題として小児では「さっき熱が出た」で受診される方が多いために結果待ち時間が増えます。このことについては色々思う人は多いところですが今回は掘り下げません。

②「検査をしてくれない」系

「さっき熱が出た」で検査をしていると検査とその待ち時間で大渋滞をきたします。小児の血液検査、尿検査はそれをすること自体に人手も手間もかかります。そのため、時間外診療では必要最小限の検査をするというのが一般的です。

また、夜に昼間のクオリティを求めるのは現状無理です。我々も平日昼間だとできる検査ができなかったり、昼間だといる他科や自科の専門家がいなかったりと制限のある中で診療しています。病院を完全な24時間営業にするのには多大な金がかかります。

そして、熱が出たばかりの時に、例えばインフルエンザの迅速検査をしても陰性になること多いことは一般の方でも知っていらっしゃる方が多いと思います。また、基礎疾患がある人以外にインフルエンザの検査をする必要はない、投薬も必要ないという考えが感染症の学問に興味のある、意識が高い方にはあったりします。世界的にはこの方が一般的なのかもしれまん。例えば、東京都立小児総合医療センターの救急のページには原則インフルエンザの検査はしないと明示されています。

http://www.byouin.metro.tokyo.jp/shouni/gairai/pdf/tiryouhoushin2018.pdf

しかし、混雑している時間外外来では、実際問題はここまではっきり明示してもらったのでないと理解してもらいにくいのと、患者さんたちはインフルエンザが気になって受診しているので、陽性だ陰性だと検査した方が説明が楽ということで熱が出たばかりでも検査している医師も多いと思います。医療資源の節約という観点からはよろしくないのでしょうが…。しっかり説明しないで検査をしない場合はトラブルの元となりえます。

昔、時間外に輸液するしないで3時間話し合ったという医師がいましたが、どうなんでしょうね…

③「薬をあまり出してもらえない」

決まりでそうなっています。時間外は重症を拾い上げる最小限の診療をします。そのため、「風邪です。解熱剤で様子をみましょう。」と医師に言われる人が多いと思われます。ただ、「風邪」っていうのは「軽い」って意味であって、その後に悪化することはあります。僕は「今のところは風邪としか言いようがありませんが」と切り出す傾向があります。詳しくは↓の記事を参照してください。 

www.blog.takkuna.com

ですから詳しく評価してもらったり、その後診てもらうように「かかりつけに受診してね」という意味も込めて長期の投薬はしないことになっています。また、「仕事があるから」などと言って時間外ばかり受診しないようにということもあります。

④「誤診だ」

これはクチコミを信用した場合、「言い訳のできない誤診」、「仕方ない面もある誤診」、「患者さんの勘違い」があるようです。最初のはどうしようもありません。僕がお話しした患者さんのお母さんで、腹痛の患者なのにおなかを触りさえしなかった、他の病院で腸重積と診断されたという患者さんがいらっしゃいましたが、言語道断です。

「仕方ない面もある誤診」は鑑別が難しい疾患で医療者から見ると仕方がないということです。進行していかないと診断できない病気なんかはその代表です。また、救急外来では例えばちいさな癌は緊急性がないことが多いので検索対象にはしないことが多いです。

「患者さんの勘違い」は言葉の意味のとりかたです。前の風邪についての記事でも述べましたが、病名の付け方が色々あって混乱することがあります。風邪の症状のインフルエンザを「風邪」と言っても間違いではありませんし、例えば「風邪だといわれたがヘルパンギーナだった」は小児科医だと「何が問題なの?」って思うと思います。特に救急外来では時間が無いので言葉足らずになる傾向はあります。

説明不足もあるのではないか?

自分が非常勤で行ったこともある救急病院のクチコミで特に思ったのは「説明不足なのではないか?」ということです。ただ、救急外来で細やかな説明をしていると待ち時間がすごいことになっていきます。

ですから、HPや受付のポスター、説明文書を渡すなどで診療方針を明示する、診療終了後はありがちな診断名についての説明書を渡すということをすべきと思っています。

このことにはいくつかの意味があります。まずは、例えば都立小児総合医療センターのようにしっかり明示していると診療医が「~なのでこの検査をしません」という説明をしないで済みます。次に、患者さんは口頭での説明についてあまり理解していないことが多いということを前提にしておくべきということです。特定のワードで頭がいっぱいになって他が聞き取れなくなったり、医師の説明が速かったり、医師が短く説明しようとして一般の方にはわかりにくい説明をしてしまったりなどなど。わかりやすい説明用紙を作っていると医師は一部を説明するだけで済みますし、後で読んでいただいて確認したり調べたりしていただけます。そして、最もよく使用される診断である「風邪」については、一般の方が思っているのにたいして注意事項が膨大だと考えているので、「風邪」こそ説明文をお渡しすべきだと考えています。